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ユーザーとマーケターの視点から生まれたSPIDER 有吉 昌康さん

ユーザーとマーケターの視点から生まれたSPIDER 有吉 昌康さん

今回は、株式会社PTP 代表取締役社長の有吉昌康さんです。
野村総合研究所の後、2000年に株式会社PTPを設立された有吉さんは、「ケロッグ経営大学院(以下、ケロッグ)出身の起業家」として、すでに有名人です。PTPが開発した“SPIDER(スパイダー)”は、1週間分の全テレビ番組とCMを、自動録画・検索できる大容量HDDレコーダー。そして2010年12月15日には、待望の「地デジ版SPIDER」が発表されました。
彼の率直な語り、起業家マインド、先を見通す力は、常に刺激的で、多くの学びと勇気を与えられます。社長はもちろん、リーダー職、今後起業を視野に入れている人など、多くの人に役立つ内容でしょう。

ユーザーとマーケターの視点から生まれたSPIDER

有吉 昌康

「ここ数年、雑誌、テレビなどのメディアで頻繁に紹介されている「SPIDER」。

これは、一般的なテレビ録画機器のように、「録画予約」機能がありません。なぜなら、一週間分、全テレビ番組やCMを「自動で」録画し、蓄積してくれるからです。もっとすごいのが、検索機能。例えば、“経営”、“スマートフォン”、“石川遼”などのキーワードを打ち込むと、関連するシーンが頭出しで見られるので、いつ、何時に、どのように放映されたのかが即座にわかるのです。

SPIDERは、現在、400社もの企業に導入され、広報や社長室の戦略ツールとして活躍しています。まさに、テレビの情報収集ツールとして、「デファクトスタンダード」の位置づけとなりました。テレビ番組「情報プレゼンター とくダネ!」の司会者である 小倉智昭さんは、SPIDERの大ファンで、自宅や職場で、仕事上、そしてプライベートでも活用されています。彼の番組でも熱烈な紹介がされていました。また、えなりかずきさんや水道橋博士さんなど、芸能人のファンも多いと聞きます。広報専門家である山見博康氏は、SPIDERを「新聞クリッピングのテレビ版」と高く評価しています。ユーザーに圧倒的な利便性を提供したSPIDERのような製品は、国内はおろか海外を探してもどこにもありません。まさに日本初のイノベーションなのです。

そんなオンリーワン製品を生んだ有吉さんとは、いったいどんな人なのでしょう。

有吉さんは以前、野村総合研究所において、マーケティング戦略を専門に、消費財メーカーやコンビニ等に対して、コンサルティングをされていました。1990年代の企業のマーケティングを観察した結果、流通が力を持ち出し、インターネットが台頭した結果、メーカーと消費者がダイレクトにつながりはじめ、「上流(メーカーや広告)がもっと進化しなくてはならない」という問題意識を抱くようになりました。

これはマーケターの視点ですが、一方で有吉さんはユーザーとしても、“テレビ大好き人間”で、自宅の部屋の四方の壁一面に録画したビデオが山積しているといいます。

「かみさんに、“録画してね”って電話までして頼んだのに、違う番組を録画しちゃって、何度も喧嘩しましたよ(笑)」と。

また、「一般的な視聴者は、知っているテレビ番組の数は20ぐらいでしょうね。でも、1週間に放映されるテレビ番組は2000以上もあるのですよ。たった1%の番組も見ていないのに、最近のテレビ番組はくだらないとか批判している人がいて、非常に残念に思います。もっとテレビの 魅力を知ってもらいたいのです。」

ユーザーとして、そして、マーケティングのプロとして、有吉さんはSPIDERのような製品の必要性を感じていたのです。

電撃的なTiVoとの出会い、そしてPTP設立

野村総合研究所時代の1999年2月、運命はここから変わりました。

有吉さんは、当時のお客様であるデジキューブ社の社長と一緒に、アメリカへ出張に行きました。そこで、世界初のHDDレコーダー, “TiVo(ティーボ)”に出会います。TiVoは、当時としては画期的な「16GB」もの大容量で、約30時間録画できるものでした。 社会人になって以来10年間、HDDの容量が、年々増えているのを経験していた有吉さんは、「あと5年もしたら、テレビ番組が1週間分録画できるようになる! テレビがもっと視聴者にとって便利になる。すると、ネットの技術を取り入れてテレビが進化して新しいマーケティングも可能になる!」と直感しました。

それ以来、頭にそのビジョンやイメージが鮮明に浮かび、眠れなくなったといいます。その年の末には事業計画書を作成し(ここがケロッグ流)、翌年の2000年5月に、株式会社PTPを設立しました。10年たった今、PTPは、有吉さんのその時のイメージを形にしたユニークな製品とともに成長しています。

ベンチャーとしての苦労はありましたか? と質問をしたとき、有吉さんは、「設立してから10年たちましたが、7回死にました(つまり、7回大きな失敗や壁にぶつかったということです)。」

資金繰り、社員の確保、製品開発、営業など、多くの試練が襲ったはずです。それこそ、何度となく、あきらめようかと思ったでしょう。なぜ、あきらめずに多くの壁を乗り越えられたのか? という問いに有吉さんはこう答えました。

「なぜなら、僕には、5000万世帯のテレビ体験を変えていくイメージが見えているからです。使命というよりも、これは僕の夢であり、やりたいこと。道半ばで、まだ達成していないのにやめられませんよ。」

事業の未来をしっかりとイメージできていること。ビジョナリストである有吉さんの成功への確信を感じた言葉でした。

PTPのパワーを支えるマネジメントのプロたち。鈴木尚氏と村口和孝氏

実は、有吉さんが野村総研時代に、アメリカへ一緒に出張したのは、後にスクウェア代表取締役社長をされた(現在は楽天株式会社常務執行役員)鈴木尚氏です。

TiVoを見て興奮した有吉さんは、鈴木氏に何度も何度もその思いを語り、鈴木氏は、PTP設立の最初の出資者となり、有吉さんのチャレンジを手助けしてくれました。当時作成した事業計画書は2度つきかえされた、といいます。そして3度目で、「“まあいい、やってみれば?”、多少の迷いがまだ残っていましたが、 ”とにかくやってみな”と背中を押されてPTPは始まりました。」 

そして、もう一人は、日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口和孝氏。

2005年当時、資金繰りのために何十社というベンチャーキャピタルに会いました。しかし、過去の3期分の決算書や多くの書類を求め、審査に3か月かけた結果、どの会社も投資にGoサインを出さなかったのです。しかし、村口氏のアプローチは、まったく違っていました。 書類ではなく、たった4回のディスカッションを通じて、有吉さんの思いや人物像をじっくり観察し、なんと、1ヶ月弱でPTPへの投資を決断しました。

「村口さんは、シリコンバレー式の本物のベンチャーキャピタリストだ。」と、有吉さんは彼の凄さを語りました。

そんな村口さんの示唆に富んだメッセージを彼のTwitterで見つけました。

「新しい諺“失敗なくして成功なし”。 失敗は、避けるべきものではなく、事業を立ち上げようとする過程で、何度も遭遇する必然的な成功へのプロセスである。“失敗は成功のもと”というような慰め的な諺でなく、もっと積極的に、失敗を過程として学習モデルを表す諺を提唱したい。」

勇気を与えられる言葉です。このような強力なメンターがいる環境で、PTPは「テレビの次の50年を創る」という自らの夢を実現していくことでしょう。

今後のPTPの予定ですが、2011年4月に法人向け地デジ版SPIDER PRO、同年12月には待望のコンシューマー向けSPIDERを発売するそうです。テレビにSPIDERが標準搭載される日も見えてきましたね!

取材・文責:ケイティ堀内

*この記事は、ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン(ケロッグ経営大学院 日本同窓会)が運営するサイト、ケロッグ・ビジネススタイル・ジャパン向けに執筆したものです。

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