留学経験ゼロだった自分がグローバルリーダーへ挑戦した理由(2):小田原 浩さん
海外のビジネススクール、MBAを取得できるところは数々ある。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(ケロッグ・スクール・オブ・マネジメント)は、 ハーバード、 スタンフォード、 ウォートン(ペンシルベニア大学)、 ブース(シカゴ大学)と共に、世界的に高い評価を受けているビジネススクールの一つである。マーケティングの分野では圧倒的な強さを持ち、多様性、高いインターパーソナル・スキルなど、特徴はいろいろあるが、その中でも際立つのが、チームワークを重視した教育だ。
マッキンゼーのパートナーとして、グローバルに活躍している小田原さんが、ケロッグでいかにしてグローバルなチーム力やリーダーシップを学んだかを語ってくれた。
(第一回はこちら)
ケロッグは、一にも二にも “チームワーク”
「ケロッグはどの学校よりもチームで何かをするという事を重視します。アサインメントやプロジェクトはチームでやったりしますし、イベントやクラブ活動も盛んです」
授業カリキュラムの仕組みとして、強制的にチームでいろいろやらせる。必修科目の期間は、先生がチーム組みを指示するが、その後は自分たちでチームを作る。さまざまな得意技をもっていたり、協力的な人は人気があり、いろいろなチームから引っ張りだことなるが、そうでない人は誰からも声をかけられない。
「エバンストンという小さい町に、学生の9割以上が住んでいますから、いつでもリアルに集まれるんですよ」
メールなどネットだけではなく、実際に一緒に顔を合わせて、チームで行動できる貴重な環境がある。
やはり、自分はネットワーキングに向いていない
ケロッグの学生は、国を問わず、高いコミュニケーション力を持ち、社交的な人が多い。だが小田原さんは、初めて会う人との会話が苦手で、いわゆる「人見知り」であったという。
「知らない人は大の苦手。パーティーだとか、ネットワーキングのためのイベントは、基本的に行かないですね。苦痛でしかありませんでした」
それでもケロッグにいた時は、学校のいろいろなイベントや集まりに極力顔を出して、皆に挨拶することを意識的に心がけた。たとえ、次の日の予習が間に合わなくても、コミュニティー活動を優先することもあった。
「ケロッグで嫌というほど イベントやパーティーに行きましたが、結局、自分はネットワーキングには向いてない、それがはっきりとわかりました」
そんな彼が、いかにして人との距離を縮め、ケロッグにおいて、チームワークやリーダーシップを発揮したのだろうか?
短時間で親しくなれないから、一緒に何かする
「KCJ(ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン)前会長の加治さんは、誰にでもどんどん積極的にアプローチして、人と人を繋ぎます。羨ましくて、凄いなと本当に思います。自分は短時間では、相手との関係をなかなか作れません」
世の中には、短時間で人の懐に飛び込んで関係性を作り、ネットワーキングを最大限に活かせる人もいれば、苦手な人もいる。小田原さんは、「人見知り」であっても苦にならない「ある」方法で、人間関係を作った。
「わたしの場合は、なにか共通の目的や課題を見つけて、それを一緒にやっていく、という方法です。具体的な活動の中で互いを知ることができてくるし、信頼も生まれてきます」
チームで課題を解く
ある日、統計の課題をチームで解くように出されたとき、数学が得意な日本人は、パパっと解いた。チームのメンバーで、それぞれの解答を突き合せたとき、数学が苦手なアメリカ人の答えは、トンチンカンなほど間違っていた。
しかしメンバーは、チームとして1つの答えを選ばなければならない。こちらが正しいのは明確なのだが、間違っていると相手に英語で納得させるのは、工数がかかる作業だ。
「英語で、意見が違う相手と議論するのは凄く大変です。下手すると自分の答えは正しいのに、こちらが負けたりするわけですよ。
うまく説明できず、不本意ながらも相手の言う通りに提出すると、やっぱり間違っていた。『あー、ヒロシが言った通りだった!』と。こういうことを経験すると、自分一人でペーパーを書いた方が、マシなんじゃないかって思うわけです」
短期的な効率性を考えると、チームでやることは必ずしも良いことばかりではない。それでもケロッグでは、それをやらせる。それはなぜなのか?
「長期的に考えると、人間ひとりができる事って、本当に限られているんですよ。だから、何か大きな事をやる場合は、それぞれが持つ強みを合体させてやったほうがいいんですよ」
すべての分野で80点の人が5人集まったチームよりも、ある分野におけるスキルは100点で、残りの分野では50点という人が5人いるチームのほうが強いと、小田原さんはいう。つまり、それぞれ違う得意分野を持つメンバーが5人集まるチームなら、うまくすれば、全分野において100点となるのだ。
もちろん逆のケースもあって、ダメな点ばかりを出してしまうこともある。いかにして、互いの得意を活かしあうか、それがチームワークの醍醐味なのだ。そして、そのチームワークをこれでもかというほど実践させて、グローバルな環境下でリーダーシップを鍛え、引き上げる環境が、ケロッグの最大の魅力なのだという。
「他のビジネススクールでも似たような仕組みはあるでしょうが、チームワークを最重要視しているのはケロッグだと思います」
外国人学生を率いて、富士山へ ―クエストトリップ(KWEST)
ケロッグでは、チームで行動するのは授業の時ばかりではない。イベントも多くある。そのひとつがクエスト(KWEST)だ。
入学前に一週間ほど、学生同士で旅行をする。クエストを経験した小田原さんは、二年生になる頃、クエストの企画・運営側を経験した。
企画したのは、外国人を日本へ率いる「クエスト・ジャパン」。富士山に登り、温泉に入り、日本の高校生と一緒に飯盒炊飯などを通して異文化交流。生活を共にする中で、互いの常識や、考え方の違いを痛感する。
「すき焼に連れて行ったんですよ。行く前に、ベジタリアンがいるか事前に確認したところ、一人のインド人が『ベジタリアンだけど、肉も食べる』と言いました。
ところが、すき焼きが出てくると『これはもしかしたら牛肉か?』と。彼の中では牛は“神聖な生き物”であって食べ物として提供されるとは想定していなかったのです」
ビジネスの世界ではあまり感じない違いが、共に生活をしてみると山ほど見えてくる。
富士山登山では、体力・気力に乏しい参加者を脱落させないように、うまく率いて登頂をさせた。またメンバーの皆に温泉を楽しんでもらったり……事前の予想とは違う、外国人のさまざまな姿を見た。
ケロッグのイベントを通じて、職種、国といった枠を超えたグローバルなチームワークをさまざまな形で経験した。
次回、最終回は小田原さんが考えるリーダーシップ像と、KCJ(ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン)の今後の展望についてお伝えしよう。
取材・文責:ケイティ堀内
*この記事は、ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン(ケロッグ経営大学院 日本同窓会)が運営するサイト、ケロッグ・ビジネススタイル・ジャパン向けに執筆したものです。