クリエイティブの種
クリエイティブの種
マイナスからプラスを生みだすクリエイティブな力

マイナスからプラスを生みだすクリエイティブな力

「クリエイティブ」。何気なく使い、人によって定義も様々なこの言葉を今一度考えてみたいと思います。

西洋文化に大きな影響を与えている聖書の冒頭にこんな一節があります。旧約聖書の冒頭、創世記第1章第1節に“In the beginning, God created the heavens and the earth.”(初めに、神が天と地を創造された)「天地創造」というミケランジェロ名画でも有名ですが、何もない無の状態から、天と地ができたというのです。そう考えると、クリエイティブとは、「無から有を生む行為」と言い換える事ができるのではないでしょうか?その意味で、単にユニークなアイデアを生み出すのみならず、マイナスと思える問題や試練を乗り越える行為もクリエイティブといえると思うのです。

オーストラリア人の友人に現地でビジネスを通じて人の助けや、希望になるような人がいないかと依頼したところ紹介された「清掃会社『ケアンズ・コンプリート・クリーン社』のオーナー、チャズ・ヴェッキアさんもそんな試練を乗り越えてきた一人。前職は牧師だったという彼に、オーストラリアのケアンズの海辺でお話を伺いました。高級リゾート地で、現在11人の子供と孫に囲まれ幸せな生活を送る、大柄で陽気な彼からは想像できないほど、実は彼の人生は試練の連続でした。

その試練は青年期から始まっています。チャズは、ギャンブルで大金を失ったという父を15歳の時に亡くしましたため、8歳になる弟を母と力をあわせて養わなければなりませんでした。周りにはアルコールやドラッグをする悪友がいましたが、その影響を受けなかったのは、懸命に働く母を尊敬していたからだったと言います。

その後も、チャズは、度々仲間の裏切りや、経済的危機を経験し苦悩します。これらのチャズのエピソードを通じてクリエイティブになるために必要な心がけを学ぶことができます。

「赦しは、怒りに勝る」

今から17年前の2000年、チャズは自分が展開していたビジネスの一つを1億円で売却しました。ところが、それが思わぬ展開となってしまいます。購入者のデビットはその支払いを行わないどころか、その後、会社を倒産させてしまったのです。チャズは騙されたのでした。

この倒産がきっかけで、チャズの生活はどん底まで困窮しました。彼の息子は、デビッドへの怒りをあらわに、「殺してやりたい」とまで言いましたが、父親のチャズは「そんなことを言ってはいけないよ」と諭したのでした。

その2年後、チャズはデビットと再会しましたが、そこは図らずも死をイメージさせる墓地。とても怖がっているように見えるデビッドに、チャズは手を差し延べてこう言ったのです。「おいで、デビット。倒産はとても残念だった。抱きしめて上げよう。」そして、さらに言いました。「君を赦すよ」と。

その10年後の2011年、彼は、またも大きな試練に遭遇します。ビジネスが倒産の危機に追い込まれたのです。さらに同年、妻とも離婚。自社の従業員の給与を出すため、また多額のお金を要求する元妻のため、チャズは3つの仕事を掛け持ちし、懸命に働きました。牧師の仕事を続けながら、早朝3時から11時までは青果商、午後は1時から7時までは肉屋と働き続けました。その結果、会社の倒産は免れたのでした。

しかし、その間、子供達は2年間も、口をきいてくれず、教会の仲間は離れていき、15才だった息子はドラッグをするまでなっていました。チャズは、毎晩、シャワーを浴びながら賛美歌を歌い、自らを慰めましたが、いつも歌い終わると涙が溢れてきたと言います。そして、神様に問いました。「なぜ、私には、こんなことばかり起きるのでしょう?いつでも天国に連れて行って下さい」と。

この話を聞きながら、子を持つ親として私は、チャズに尋ねました。「自分の愛する息子が悪さをした時、どのように親は指導すればよいのでしょうか?」と。彼は、ここでも「赦すことだよ。」と語り、次のように続けました。「子供は、自分が悪い事をしている事は十分わかっているし、それについて落ち込んでいるんだよ。」

ドラッグをしていた息子は、現在、牧師となり人々に愛を説く仕事に人生を捧げています。彼のマイナスの経験がプラスを生み出したのです。


「自分の才能を活かす」

親との死別、経済的困窮、倒産の危機、離婚、我が子のドラッグ。彼は、これらの試練をどうして乗り越えられたのでしょう?クリスチャン経営者のチャズは答えました。

「神様は私たち一人一人に、それぞれ違った『才能』という『ギフト』を与えて下さっています。しかし、多くの人はそれを使っていないし、活かしきれていない。例えば、自分の子供に、せっかく素晴らしいプレゼントをしたにも関わらず、『そんなもの使いたくないよ!』と言われたと考えてみてください。とても、悲しいでしょう?神様も同じなのです。」

チャズは神様から「起業家の才能」を与えられたと言います。しかし、それは決して平坦な道ではありませんでした。しかし、そんな試練の時にこそ、神様に祈り、その結果、現在の幸せな生活を手にできたと言います。「天国にお金は持っていけないし、その時神様に『おいくら必要ですか?』とは言えないからね。」と笑います。

こんな試練を経験した彼は、最後に、聖書のヨブ記を引用し語ってくれました。
ヨブ記は、因果のない苦しい試練を与えられても神を信じ続けたヨブという男性の話。人間が出会う苦難は神様だけが知り、人間には分からない意味や理由、計画があると説いています。そして、その計画に従う時、何倍にもして祝福されるとも・・・。「私の人生は、人を助けようとしたために何度脅かされたか分かりません。それはまるでヨブに起きたことのようでした。でも神様は試練を通して、私に『幸せ』を与えてくださいました」

クリエイティブな事は、クリエーターだけが考えるものでありません。子供達が限られた資源で考える遊びや、試行錯誤する子育て、相手の体調や好みを考え調理する料理など、日常の中にクリエイティブな種は散らばっています。

目の前の壁を乗り越える。経験したことのない苦難の打開策考える。これらも、とてもクリエイティブな行為だと思うのです。

ヨブ記のヨブを英語で書くとJob、ジョブ。Job=試練?何か通じるものがあるのかもしれません。仕事に苦労はつきもの。その苦労を乗り越えてた先に、「人の心を打つクリエイティブな価値」が生まれるのではないでしょうか?辛い雨の後の美しい虹のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文:堀内秀隆
 (H&K グローバル・コネクションズ 共同創業者/クリエイティブ・マーケター)

理念・人・世界をつなぐブランド・プロデュース会社
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