リーダーのストーリー
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【創業者×理念 #3】ルーム・トゥ・リード:大手IT企業のエリートから転身し、途上国の教育環境を向上させた貢献者 ジョン・ウッド

【創業者×理念 #3】ルーム・トゥ・リード:大手IT企業のエリートから転身し、途上国の教育環境を向上させた貢献者 ジョン・ウッド

人は時に、一冊の本との運命的な出会いをすることがあります。

ある日、私が書店でふと目に留まったタイトルに心を惹かれて、中身も見ずに買ってしまったもの。それが、『マイクロソフトでは出会えなかった天職~僕はこうして社会起業家になった~』(ジョン・ウッド 著/矢羽野薫 訳、ダイヤモンド社)でした。

著者は、米国人ソーシャルアントレプレナーとして世界的に知られるジョン・ウッド(John Wood)氏。「発展途上国の貧困連鎖を断ち切るためには、教育が不可欠」という信念の下、2000年に設立した非営利法人「ルーム・トゥ・リード(Room to Read、以下RTR)」を創設した人物です。

RTR創設前のウッド氏は、ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院でMBAを取得し、マイクロソフト社で中華圏市場を統括するマーケティングのエグゼクティブとして活躍しました。

競争が激しいITビジネス界でエリートコースを嘱望されていた彼が、なぜソーシャルアントレプレナーへと転身したのか? また、いかにして自身の想いを世界に伝え、ソーシャルビジネスで変革を起こしたのか?

ノースウェスタン大学の同窓生である私は、彼の想いを直接聞いてみたいと思い、以前、六本木でインタビューをさせていただきました。

今回はルーム・トゥ・リードを事例に、「創業者と理念」というテーマで書いてみます。

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当ブログ「リーダーのストーリー」シリーズでは、弊社の信条である≪人が究極のブランド≫を実践し、世界で活躍するリーダーたちにスポットを当てて、独自の視点で分析。

変革に挑むリーダーやチームのために、理念・パーパスの実践 、クリエイティブな発想、ステークホルダーとの関係づくりなどに役立つブランド・コンテンツや、コミュニケーションのヒントを発信しています。

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※本記事は、過去の記事を再編集したものです

「教育こそが貧困の連鎖を断ち切るツールとなる」という強い信念

発展途上国で暮らす多くの子どもたち、とりわけ少女たちが虐待や貧困に苦しみ、短い生涯を終えたり、社会の底辺で苦しみ続けたりする過酷な現実。伝える術を知らない彼らの声はあまりに小さく、先進国といわれる“安全地帯”で日々忙しく生きる私たちの耳には、なかなか聞こえてきません。

ウッド氏は、マイクロソフト在職中に訪れたネパールで、彼らの置かれた厳しい現状を目の当たりにしたといいます。

そこで彼は、悲惨な状況を変える方法があることに気づきました。「教育」です。教育こそが貧困の連鎖を断ち切り、自らの境遇を理解し、より良い人生のために努力する機会をつかむためのツールだと。

彼はマイクロソフト社を去り、発展途上国の子どもたちに教育機会を提供するため、2000年にRTRを創設しました。


 

 

 

 

 

 

「結果が語る」 Results Speak. ~自身の想いを数字で示す

RTRは、ビル・クリントン元米大統領の財団をはじめ、多くの資産家から大きな財的支援を得ています。ではなぜ、RTRが選ばれたのでしょうか?

「私のアプローチは、非常にシンプルな二つの単語で表現できます。

それは『結果が語る(Results Speak.)』ということ」

「理想だけを語るのは簡単です。教育の大切さを説く団体は、山のようにある。しかし私たちは、教育の重要性について語るだけではなく、実際に行動を起こし、大規模に取り組み、結果を出しているのです。

RTRは、この23年間で世界各地に182,400校以上の学校を開校し、3,930万冊もの寄贈本を届けました。このように数字で『結果』を伝えることが、多くの世界に名だたるトップクラスの資産家の心を捉えたのだと考えています」

「設立当時の私たちは無名の存在でしたが、現在では、世界で最も成功した教育関連の非営利法人へと成長しました。私が過去にマイクロソフトやケロッグ経営大学院で得た学びが、大いに役立っています」

世界を変えていく「手ごたえ」を「結果」として可視化し、世界中の人々に向けてあらゆる手段を用いて伝えていく。この戦略こそが、ビジネス界のエクゼクティブ層や資産家を惹きつけるウッド氏の、ソーシャルビジネスの真骨頂だと納得できました。

絶望的な状況で人一倍行動することが、支援者たちの心を動かした

「失敗や試練はなかったのか?」と聞いてみると、事業を軌道に乗せるまでには、やはりさまざまな困難があったと彼は語りました。

「2008年のリーマン・ショックは、非常につらい時期でした。リーマン倒産の影響で、私たちは約7億円相当の支援金を失ったのですから」

この時期、多くの支援者が「市場悪化のために支援金を確約できない」と言い始めました。それが、学校建設など数多くのプロジェクトがストップすることを意味すると分かっていたウッド氏は、さすがに気落ちしたそうです。

何よりも一番被害を受けているのは、世界中の貧困者たちであることも予測できました。

 

しかし、ウッド氏は諦めませんでした。それどころか、さらに熱心に活動を続けた結果、一つのプロジェクトもキャンセルすることなく、年間18~22%の成長を遂げることができたのです。その秘策について聞いてみると、彼は次のように答えてくれました。

「特別なことは何もありませんよ。私たちはそれまでよりもスマートなやり方で、熱心に活動しただけです。より遠くまで足を運び、より多くのイベントに参加し、より多くの人々にメッセージを届けました」

「当時、ほとんどの人々が、世界的な経済危機でどうしようもない状況にあると悲観していました。ところが私は、子どもたちへの教育支援を『どうしようもないこと』だとは思わなかった。図書館を一つ建設するにしても、『自分でコントロールできること』だと考えたのです」

ウッド氏のこの熱い情熱は、いったいどこから湧き出てきたのか? インタビューの最後に彼の率直な想いを聞いてみました。

「『より良い世界のために』ということに尽きますね。それを実現するためには、自分がこれまで受けた幸運を他の人々にも分ける必要があります」

例えば、MBAを取得できた幸運。

幼少期に沢山の本を読めた幸運。

それらの幸運は自分一人でつかんだものではなく、自身が先進国に生まれ、十分な教育に恵まれた環境があり、親や周囲の人々が献身的に支援してくれた結果だというのです。

現在、RTRは21カ国で1,600人以上のスタッフを抱える大きな組織となり、今日も世界中の子どもたちに希望を与え続けています。

今回のポイント:

創業者の経験・教訓を、理念へと昇華させたビジネスは、多くの人々の心を動かす。

文:ケイティ堀内 
(H&K グローバル・コネクションズ 共同創業者 / プロデューサー)

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