取材後記(2) コトラー、そしてケロッグとは フィリップ・コトラー教授
東京で、コトラーカンファレンス2013が開催された。各界のトップや著名人がぞくぞくと集まり、低迷する日本への提言が話された。1000人もの参加者を約2週間で集めたコトラー教授、そして彼が50年もの間、教鞭をとり続けているケロッグ経営大学院とは。
コトラーカンファレンス2013
6月17日、快晴の午後、東京ビックサイトにて、「コトラーカンファレンス2013」が開催された。
全1000席を用意した数万円ものチケットは、わずか2週間足らずで完売。カンファレンスの出席者はそうそうたるメンバーが名を連ねていて、ネスレ日本株式会社の高岡社長、ローソンの新浪社長、ユニチャームの高原社長、そしてスイスのビジネススクール、IMDからはテュルパン学長がかけつけた。
特に、ネスレ日本株式会社の高岡社長は、コトラー教授との出会いを心待ちにしていたようだった。高岡社長のリーダーシップにより、“キットカット”ブランドは日本で大成功、コトラーのマーケティングの教科書で成功事例として紹介された。会場には、セブン&アイの創業者である伊藤雅俊名誉会長の姿も見られた。ご子息がケロッグで学んだ関係から、来日時にはご自宅に招いて会食をするほど親交が深いそうだ。
会場は、日本の未来を託すかのように、熱心に彼の提言に耳を傾けた。このときの内容は、7月28日の日経新聞の大きな記事となって掲載され、テレビ東京は、『ナゼを解明!ヒットの真相-マーケティングで切りひらく次世代ビジネス-』というテレビ番組として放映した。さらに、ハーバード・ビジネス・レビュー誌でもコトラー教授は大きく取り上げられ、これからの時代、マーケティングがどのような役割を果たしていくのか、そして人間中心のマーケティングの持つ意味は何なのかが伝えられた。
コトラー、そしてケロッグとは
フィリップ・コトラー教授は、1931年、シカゴに生まれた。現在は、名実ともに、世界最高峰のマーケティング学者であり、ケロッグ経営大学院が誇る教授である。
彼は、概念的だったマーケティングを体系立て、世界に広めた功績が認められ、数々の賞を受賞した。2005年、英国新聞フィナンシャルタイムズが「世界で最も影響力があるビジネス思想家のトップ5」を発表、ピーター・ドラッカー、ビル・ゲイツ、ジャック・ウェルチ、マイケル・ポーターと共にフィリップ・コトラーの名が挙げられた。
コトラー教授が属するケロッグ経営大学院は、100年以上の歴史がある米国のビジネススクールである。実は、ビジネスウィーク誌による全米MBAランキングでは、ハーバードやスタンフォードと共に常にトップ5に入るほど、評価が高い。
卒業生には、Room to Readの社会起業家ジョン・ウッド氏や、キッザニア創業者のハビエル・ロペス氏、日本ではエーザイの内藤晴夫社長、YKKの吉田忠裕会長、北米トヨタ自動車の会長である稲葉良睨氏、経済評論家で現参議院議員の藤巻健史氏などがいる。
驚くことに、コトラー教授は1962年から今日まで、50年以上ケロッグで教鞭をとってきた。ケロッグの教育・研究水準が世界トップクラスであるのは明らかだが、特にマーケティングの分野で世界一と称される理由のひとつが、コトラー教授の存在だといえる。
コトラー教授は、マーケティングは、常に多角的視点が必要で、多くの人や部門を巻き込みながら、総合的にビジネスをクリエイトするCEO的な能力が必要だと説いた。ケロッグの教育のゴールである「コラボレーション型リーダーシップ」は、まさにコトラー教授が教えるマーケティングの原点なのだ。
ところで皆さんは、「ソーシャル・マーケティング」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ソーシャル・マーケティングとは、貧困や国際紛争などの社会問題を解決することを目的としたマーケティングを指す。実は、この言葉を最初に使ったのはコトラー教授である。
彼は、1971年のコトラー教授とジェラルド・ザルトマンによる“Social Marketing: An Approach to Planned Social Change” という先駆的な論文で、この言葉を初めて登場させた。その後、多くの著名な研究者、実務家が発信者に加わり、世界銀行なども関心を寄せ、研究が進められていった。今では、ビジネス・プロフェッショナルなら誰もが知る言葉となった。
コトラー教授はマーケティングをビジネスの発展だけではなく、NPO、政府、教会などあらゆる分野への適用を拡大し、世界をより良い場所となることを願っている。実際、このソーシャル・マーケティングによって多くの人が人生を変え、勇気を持って世界を変えるきっかけとなっている。
取材・文責:ケイティ堀内
*この記事は、ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン(ケロッグ経営大学院 日本同窓会)が運営するサイト、ケロッグ・ビジネススタイル・ジャパン向けに執筆したものです。