リーダーのストーリー
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人と地球に優しいモノづくりを追求し65年 「椅子の神様」宮本茂紀氏の映像をグローバルチームで制作

人と地球に優しいモノづくりを追求し65年 「椅子の神様」宮本茂紀氏の映像をグローバルチームで制作

私たちは、1日何度も、また何時間も「座る」という行動をとっている。でも、その道具を意識しているだろうか?

その「座る道具」に、日本で最も探究心と情熱を燃やしたであろう人がいる。飛行機でも、新幹線でも、百貨店でも、座り心地を追求しすぎるあまり、そこにある座席のシートをひっくり返したり、外したりして、現場の乗務員や店員を驚かせたなど数々の逸話を持つ人物だ。(新幹線では、それがきっかけで、JR東日本新幹線シート開発顧問に就任したというから恐れ入る)

この方は、黄綬褒章も受賞した「椅子の神様」の異名を持つ宮本茂紀さん。私が出会ったのは20代の時だ。当時、私は椅子を作り続けて1世紀以上、世界初のリサイクルチェアを発表するなど環境問題にも世界に先駆けて取り組んでいたドイツの高級家具メーカー・ウィルクハーン社の東京での営業をしていた。その日本での製作をして下さっていたのが、宮本さんの会社だった。

宮本さんは、中学卒業後、徒弟として職人の道に入り、若い頃から「世界を股にかける職人」を目指した。その夢を実現すべく、日本初の家具モデラーになり、日本で初めて国際家具見本市「ミラノ・サローネ」にも出展した。他人が敬遠する難しい仕事でも、積極的に引き受けることで信用を積み上げ、世界の名だたる建築家やデザイナーのアイデアを形にしてきた。

徒弟時代ごろの東京家具屋周辺の風景


その中には、東京オリンピックのスタジアム建設で話題になった建築家、ザハ・ハディッドと隈研吾の両氏をはじめ、イタリアデザイン界の大物アントニオ・チッテリオ氏、シャープの液晶テレビ・アクオスをデザインした喜多俊之氏など、錚々たる人々が名を連ねる。

デザイナーのアイデアを形にするという強い情熱がある宮本さんだからこその、面白いエピソードがある。かつて、「俺の考えていたものと違う」という理由で支払いを拒まれ、そのデザイナーの目の前で椅子を叩き壊したことがあるという。直接本人にその理由を尋ねたところ、「気に入らないところがあれば、いくらでもやり直す」と言っているにも関わらず、デザイナーが考えをはっきりさせなかったからだそうだ。温厚なお人柄から想像できない職人としての心意気を感じる。その残骸は、「失敗から逃げなかった勲章」として今も倉庫に保存されている。

裁断する職人技にも撮影スタッフは見入った


一流デザイナーといわれる人々からは多くを学んだ。若い頃、「(フランク・ロイド・ライトなど)巨匠と呼ばれる人は、みんな日本の美を研究したんだよ」と語る昭和を代表する家具デザイナーの一人、野口壽郎さんから、“木の味を生かす”、“虎斑が綺麗なものを選ぶ”といった“木”でモノをつくる基本を学んだ。

宮本さんの部下の方から「うちのボスはいつも最初に行って最高の木材を買い付ける」と聞いていたが、そのルーツはこんな教えにもあるのかもしれない。実際、宮本さんの会社が製作する家具は素材の美しさを活かし、下手な塗装は不要。建築家やデザイナーの中にも多くのファンがいた。

“木”への愛情と造詣も半端ではない。それぞれ個性がある”木”の魅力を活かしたモノづくりがしたいと、世界中から木を取り寄せ、独自の椅子BOSCOを製作。最終的に200種類以上にもなった。現地に出向き、世界の木材開発と流通の大きな問題も目の当たりにした。

BOSCOシリーズの椅子たちの一部


これまで、宮本さんは、宮内庁をはじめ、JRカシオペア車両の座席、マッカーサーや吉田茂、白洲次郎など歴史に影響を与えた人物の椅子など、数々の椅子づくりに携わってきた。それらの仕事の裏話は、時に突拍子もないが、どれも示唆に富んでいる。詳しくは、本人の著書「
世界でいちばんやさしい椅子」に紹介されている。

80歳を超えた今も現役でモノづくりを続ける宮本さんの製作現場を、国と時代を超えて人に知っていただきたいと、私たちはグローバルなチームで映像に収めた。宮本茂紀の世界の一端が伝わればと思う。

Short Movie of Shigeki MIYAMOTO with English subtitle

今回のプロジェクトチームは非常に国際的。監督はオーストリアのManuel Cavaleras、撮影&編集はアメリカ人のDavid Woo、照明&アシスタントはアイルランド人のGrace O Donnell、そしてプロデュース&翻訳・通訳をH&Kが担当した。宮本さんの職人技を現場で撮影した欧米のクリエーターは、終始感動していた。


「今の職人は、流通に乗る材料しか知らない。地球が本来持ち、自生している木の魅力を知らずにモノづくりしている」とその現実を憂いてもいる。宮本さんは、若手に対して、「モノづくり職人であっても、椅子屋になるな」と伝えているそうだ。映像では、「自分は椅子を作りたかったわけではない。時代が要求するものを作ることが、モノづくりには大切だ」という彼のメッセージも映像では伝えている。



若い世代にも宮本さんは技を伝えてる


そんな宮本さんの展覧会「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」が、現在、大阪・梅田で開催されている(東京は9月5日から)。ぜひ足を運んで日本を代表する職人の仕事を感じとっていただきたい。本当のモノづくりへの想いがわかると、商品への愛着が生まれ、今、buzzwordになっている「サステナブル」といった考え方は当たり前になるのではないかと感じた。



宮本茂紀さん(中央)、デザイナーの竹綱さん(左)と共に

 

文責・堀内秀隆

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