リーダーのストーリー
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世界戦略で成功した芸術家:村上 隆

世界戦略で成功した芸術家:村上 隆

最近ドルが心配です。3年前には、わが国のように信頼し、身近だったアメリカの通貨・ドル。それが、サブプラム問題、さらなる経済不振、強いユーロに台頭により、日に日に下落しております。来年にかけて、引き続き、ドルの世界機軸通貨としての信用力に目が離せません。

 

今回は、村上隆氏のステキポイントを分析したいと思います。
http://www.kaikaikiki.co.jp/artists/list/C4/

彼は、日本のオタクカルチャーをベースにしたポップアートで世界的に有名なアーティストです。高級ブランドのルイ・ヴィトンとのコラボレーションを発表したりして話題性もあり、アートビジネスを成功させた人です。オークションにおける彼の作品は、2003年には6,800万円、2006年には、1億円という値段でした。

しかし、現在、46歳の彼ですが、36歳までは、極貧で、コンビニの裏で売れ残り弁当をもらって生活していたというのは信じられない話です。

私は、これらの漫画やオタク文化というものについて、暗い、ダサいイメージを持っていたので、彼の作品がこれほどまで、アメリカやヨーロッパで成功した事が、信じられませんでした。

また、欧米に反して、日本では、批判的な声が多く、彼を「芸術家ではなく、単なる商業主義者」、「日本の低所得アニメーターが築き上げた文化の上澄みを利用しただけ」など、残念な状況ではあります。

彼が、アーティストなのか、はたまた、ビジネスマンなのか、という事よりも、彼が世界を相手に勝負を挑んだことに注目したいと思います。

なぜなら、その結果、大きなビジネスを獲得しただけではありません。それ以上に、「アート」を通じて、従来の日本のイメージが、富士山、菊、芸者、トヨタ、ソニー程度から、日本のオタクをはじめとする日本モダン・カルチャーを効果的に伝えたからです。

国際パーソナル・ブランディングを探求し、そのノウハウをお客様に役立てることを生業としている私達にとって、村上氏の起業家としての側面は大変興味深いです。

今回のステキ分析では、彼の人格面よりも、国際マーケティング上でのテクニカルな部分に焦点を絞り、皆さんにお伝えしたいと思います。

● ステキポイント1:世界を視野に入れた戦略的アクションと情熱

彼は、日本の美術界では全く売れませんでした。だからこそ、世界へ進出する動機が一層強く働いたのかもしれません。彼は、芸術の本場
であるニューヨーク、パリにターゲットをおき、そこでの、「芸術界で成功するルール」を徹底的に分析します。(アンディ・ウォーホール、マチス、ピカソ、葛飾北斎、など、彼らの作品にこめた価値、その制作プロセス、市場での評価角度、などなど。)

彼は、これら分析の結果、欧米の芸術市場で打ち勝つためのKFS(Key Factor of Success; 成功要因)を下記のように結論づけています。;

世界でオンリーワンとしての自分を発見し、その核心を歴史と相対化させつつ発表すること

これって、芸術家だけでなく、誰でも自分戦略をたてるときに、必要になってくると思うのです。それを、芸術家としての言葉で表現されたものを聞くと、私たちの理解も深くなりますね。

そして、自分の戦略ゴールを、下記のように3段階で設定し、全て達成しました;

ステップ1: 本場の欧米で成功する(現地潜在顧客のニーズを徹底的に分析し、満たす)

ステップ2: 海外での成功事実を日本に持ち込み、日本人のニーズにあった作品を逆輸入する

ステップ3: 再度、欧米にて、自分本来の持ち味を理解してもらえるよう、作品づくりを行う。

日本は、海外で(特に欧米)ヒットしたものを、高く評価する傾向があります。その傾向を彼は知っていました。3段階を経たお陰で、より早く、より高く、日本で商品を売ることができました。

私は、「世界展開を視野にゴール設定し、戦略的に参入する事」がいかに重要かを強調したいと思います。

村上氏のように、あなたの商品が、たとえ日本で売れなくても、世界の何処かで受け入れられる可能性があるからです。

我々が犯しがちなのは、まず母国・日本での成功に執着したり、母国で売れた後にのみにしか海外市場を求めないといった態度です。

日本では、あなたのサービスが「平均的」だと認識されても、海外では違った角度で高く評価される商品が沢山あるように思います。村上氏は、日本では売れませんでしたが、海外で一流だと評価されたのです。今後の日本にもまだまだ期待できると思います。

例えば、日本の旅館サービスで見られる「気遣い」も、世界トップクラスに思います(リッツカールトンのように、世界にアピールしてませんが)。また、省エネ技術の高さや、省スペースの整理術、インテリア術、などなど。また、アメリカの友人は、日本のパンティストッキングを見て、常に「日本のストッキングは丈夫で美しい。だから、日本へ行ったら必ず買うのよ」と言っていました。

また、世界で勝負するには、大きな資本が必要だと思われがちですが、必ずしもそうではありません。村上氏は極貧の中、奨学金という援助制度を利用して、渡米を果たし、全力で勝負しました。前回のメルマガで紹介した吉田氏(https://hkgc.jp/topics/essay/katy/58/)も、渡米時には、$500程度のキャッシュしか持っていませんでした。

また、商社全盛時の一昔と違い、低料金の通信料、渡航費、公的機関のサポート、英語/日本語でのインターネット上の豊富な情報など、海外ビジネスインフラに要するコストは、劇的に下がっていると思います。特にネット上で自社のホームページを立ち上げることにより、現地に行かなくてもかなりの部分を達成できるようになりました。

つまり、真に重要なのは、「世界戦略を持つこと」と、「この国で必ず成功する」という情熱を持つこと、だと思います。

● ステキポイント2:人の人生は、個人ブランドの基本である

彼は、自分が生きた人生そのものが、個人ブランドの基盤となる、と言っています。

ここを私なりに深く、広く展開して考えてみたいと思います。考えてみると、ブランド力がある会社には、必ず歴史があります。
歴史とは何か? それは、その人の生き様であり、その人がその時々に価値を置いた考え・行動の集積だと思うからです。

だから自分のパーソナル・ブランディングを考えるときに、自分の歴史、生き様をしっかりプロフィールに反映させて、「私はこんな風に生きてきたんですよ」とアピールする事が大切だと思います。ちなみに、私のプロフィールでは、職歴だけでなく、就職先の倒産経験や、子育ても含めて、トータルの私への理解をアピールしています。 https://hkgc.jp/about/

● ステキポイント3: 作品の技術・品質以上に、説明できる「物語」(ストーリー)をもたせ、そして、それを十二分に伝える

村上氏のもう一つの戦略は、「顧客に理解されるストーリーをもたせ、コミュニケーションにこだわること」でした。メーカーのマーケティング戦略といわれるものと同じです。つまり、何かを売るためには、そのマーケティング・ミックス内の強弱はあるにしても、このような「マーケティング戦略」が必要になることの証明だと思います。

彼は、

「外見以上の理解を求めるなら、芸術も娯楽も、翻訳に投資するべきなのは、明らかです」、

また、

「海外で成功するには、単に海外のマネをするのでなく、日本人としての素材を用い、むしろ、その味を濃くして、アピールする」

と考えています。心に迫る言葉ですね。

私は、このコメントに、個人ブランド構築に最も重要な2点を見出しました。一つは、コミュニケーション、もう一つが、ストーリー性です。

彼は、翻訳対象の一つである“ 絵のサブタイトル(副題)”を、特に重要視しました。彼の副題は、「Little Boy」、「Eye Love SUPERFLAT」,「Eco Eco Rangers Earth Force」、など、洗練された英語表現が多いように思います。作品価値を最大表現するような翻訳を心がけているのですね。

海外において、「あ、うん」は全く通用しません。だから、いかに他社よりも優れているか、市場背景や、優位性、差別点について、強調しすぎるぐらい強調するという作業は必須事項となります。

また、「ストーリー」とは何でしょうか? 世の中には、あまりに多くの商品や会社の数と、過剰広告、価格競争、技術革新、情報革新の結果、商品やサービス間の差はほとんどなくなってしまっています。激烈な競争時代です。その中で、選んでもらい、長く使ってもらえるためには、もう品質や単なる広告だけでは限界です。

あなたの「ストーリー性」が必要なのです。どのようにストーリーを考えるか。例えば、商品が開発されたきっかけ、社長の情熱や思い、会社の軌跡、従業員の紹介、消費者がその商品を利用する前後の架空の物語、などなど・・・。

ストーリーを通じて、機能を論理的に理解してもらうのでなく、感情面に訴える、共感を得る、という作業を行うのです。

これらストーリーは、いろんな方法で情報発信できます。例えば、「ロゴマーク」、「商品のデザイン」、「キャッチフレーズ(コピー)」、「キャラクター」など。その発信する手段(メディア)もさまざまで、「商品やサービス開発」、「日々の顧客対応」、「リーフレット/Web/」、「名刺」、「PR」、広告宣伝」、「出版」など、いろんな方法があります。

つまり、いかに顧客が、そのストーリーに感銘/共鳴するか。「ストーリー性」がある商品は、ない商品よりも、覚えてもらいやすい、選んでもらいやすい、早く理解してもらいやすい、愛してもらいやすい、と、いいことづくめです。

ストーリー能力が、一般企業にも戦略的に利用されている一例を、ダニエル・ピンク氏の著書「ハイ・コンセプト」に見つけました。その抜粋・要約は、下記の通りです。

「脚本指導のプロであるロバート・マッキー氏は、セミナーを開催しているが、高額にもかかわらず、アメリカやヨーロッパの将来の脚本家志望者が多く受講にきており、教え子は26のアカデミー賞を手にした。しかし、そのセミナーには、最近では、企業幹部、起業家などビジネスに従事する人々が、彼に教えを求めにやってきている。」

ご興味のある方は、コチラからご覧下さい。
https://hkgc.jp/topics/2007/000097.html#comment-24

「ストーリー性」と「コミュニケーション」。

ステキでいて、かつ、勇気を与えられるブランド戦略ですね。

● ステキポイント4: マネジメントについて・・・芸術は、マネーとの関係なくしては前に進めない

お金を求める行為は、日本では卑しく考えられがちです。特に、芸術家は、そうです。お金のことを忘れて、ひたすら純粋に「絵」を書くことが、本当に正しいのか? 村上氏は、そうではない、と言っています。彼は、マネーがなければ、真の自由な作品をつくれない」といっています。そして、そんな村上氏を、「彼は芸術家ではない、単なる商業主義者だ」と非難する声も多いのも事実です。

私も、お金がなくては、人生やビジネス上での自由は得られないと思っています。しかし、そのような考えがあまりにも強いと、いずれ、「お金」が手段ではなく、目的になってしまう危険性も感じます。私は、お金は、ビジネスのビジョンや、ステークス・ホルダー(客、従業員、株主など)に貢献し、喜んでもらいつづけるための「手段・ツール」だと考えています。

また、お金とつきあうことを考える前に、情熱を持てるものを探求することが重要だと思います。自分のライフワークは何か、ミッションは何か、それを探索し、体験していくたの手段として、お金とつきあいたいものです。 

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