自閉症の方の可能性を信じて ~ (株)Kaien、代表取締役 鈴木慶太さん
今回のメルマガより、数回にわたり、特別企画をお送りします。
私が卒業したアメリカのビジネススクール「Kellogg School of Management (通称ケロッグ)」の、ステキな「卒業生」をご紹介するという企画です。
ケロッグは、日本ではあまり知られていませんが、アメリカのビジネススクールの中で、毎年Business Week誌でトップレベルにランキングされています。
ケロッグと言えば、フィリップ・コトラー氏のマーケティングが有名ですが、ビジネスにおけるリーダーシップやチームマネジメント等を修得した卒業生という「ヒト」も、ブランド創りに大きな役割を果たしています。
と、いうわけで、今回から数回にわたり、ケロッグ卒業生の活躍ぶりや人となりをご紹介していきます。楽しみにしてくださいね。
1回目は、社会起業家として活躍している鈴木慶太さん。
鈴木さんは、3歳だった息子さんが自閉症だと診断された事をきっかけに、株式会社Kaien(カイエン)を設立されました。
http://www.kaien-lab.com/
Kaienは、自閉症の強みを活用し、企業のニーズにつなげ、自閉症の方々の潜在的能力を発揮する場を創造することです。
子を持つ親なら誰しも考えさせられる鈴木さんの挑戦をお読みください。
『息子を通じて知った自閉症、ケロッグ留学、そして、Kaien設立への道』
(ケイティ)
Kaienを立ち上げるきっかけとなった経緯、特に、まだ3歳だった息子さんが自閉症だとわかったときの状況や、感じたことなど、教えてください。
(鈴木さん)
ビジネススクールに行く前は自分が会社を作るとは思っていませんでした。
起業というのは、まっとうな人間が行うものではないと思っていたからです。
自分はいわゆる純ドメで、両親も会社員と専業主婦、親戚まで広げてみてもごくごく一般的な会社員や個人事業主の家庭ばかりだったからです。
なのでKaienを立ち上げるまでになるには、やはり交通事故の連続というか、いろいろな事が起こってここまで来たのだと思います。
(立ち上げるだけではダメで、 これから成長していかないと、株主にも、自閉症の方々にも、そしてなにより お客様にもいいことはないと思っていますが。。。)
大きな理由となったのは、息子が自閉症と診断されたこと、MBAでビジネスプランを書くチームが作れたこと、デンマークに先例となるモデルを見つけられたこと、そして1年程度挑戦する資金がめどが立ったこと、始めのお客さんが取れてしまったこと、があると思います。
息子が自閉症と診断されたのは3歳の頃でした。そもそも自分はNHKでジャーナリストだったわけで、こういった社会的な問題についてはアンテナを高くしていないといけなかったのですが、自閉症についての理解は皆無でした。
文字通り自分から閉じこもる症状で、ひきこもりなどと区別がつきませんでした。
自閉症というのがものすごく誤解を与える訳語で、本来は、うちの息子もそうですが、どちらかというと自「開」的な人が多いということすら知りませんでした。
そのため、診断を受けに行こうと思ったのは、たまたま私がアメリカに留学しに行く、妻と子供は日本に残すという状況になったので、心配だから言葉の遅れが 目立ってきた息子を一度医師に見せようぐらいの気分での受診がきっかけでした。
(そもそも言葉が遅いというのが自閉症の一番の特徴だということを知りません でしたので。。。)
そこで、育児相談をしていた保健センターにまず行ったところ、診てくださった方の表情がみるみる曇っていくことにショックを覚え、自閉症という単語をその時に教わりました。とにかくショックで、その後数日は車を運転していても涙が止まらず、あまりはっきりとした記憶はありません。そんな姿を見せてしまったので、なによりも息子に申し訳なかったなあと思います。
米国に一人渡ってからも、本当にこれでよかったのだろうかと自問自答しました。
Kelloggをやめてでも日本に帰ってすぐ稼いだほうがいいんじゃないかとか、そういう考えです。
しかし、自閉症について色々と調べるうちに、誤解していたような症状では ないし、そもそも息子は診断前も後も同じ人間であるし、親として何かしなくてはと、徐々にですが、思えるようになってきました。
悲しみには、ショックに始まって状況を受容するまでのいくつかのステージがあると 言われていますが、まさにそのステージを一つずつ進んだ感じでした。その答えが、たまたま他の要因も重なり起業にたどり着いたという感じです。
落ち着いてきたときに思ったのは、自分のように自閉症を誤解する親が出てきてほしくない、でも不安を感じないためにはやはり将来のこと
(自分たちが死んでから子どもが自立できるか)が解決されないといけない、と思うようになったわけです。
そんな折に、自閉症の特性を強さとして、いわゆる健常者よりも優れた技術者として活用している企業がデンマークにあると知り、本当に興奮しました。いろいろな意味で偶然が重なったと思います。
● 自閉症とKaienについて
( ケイティ )
自閉症とはどんなタイプがあって、Kaienはどんな方を対象に、どのようなサービスを提供しているのか、教えてください。
( 鈴木さん )
自閉症と言っても、大きく分けて二つ有り、知的遅れのあるタイプ(いわゆる古典的な自閉症でカナータイプ)と知的な遅れのないタイプ(アスペルガー症候群や特定不能の広汎性発達障害 と診断される)に分けられます。
Kaienは後者の方々に、IT技術者の基礎的な知識・技能を教える職業訓練を実施し、その方々を障害者雇用という枠組みで、IT業界などの企業にご紹介するというサービスをしています。特にIT技術者の中でもソフトウェアの検証、 デバッグを行うテスターを育成することを目指していますが、最終的に就職する 先は事務の補助やグラフィックデザイナーなど、広くPCを使う職種に広がっています。
顧客企業としては、東京に本社を置く企業で、障害者の法定雇用率が1.8%だから 数合わせでそこにあわせて罰金を免れようという後ろ向きの障害者雇用ではなく、障害者手帳をお持ちの方であっても優れた部分を活用して利益を出せる部署を 作りたいという前向きな企業様が中心になっています。
念のため言っておきますと自閉症の方々は顧客ではありません。あくまで訓練をうける利用者です。その利用者をご紹介する先が顧客であり、これが企業様になります。
なぜ自閉症の中でもアスペルガータイプがという質問ですが、これはやはり 知的に高度なサービスを行うときに、自閉症の中でも知的に遅れのないタイプ の方に絞ったほうが良いと思ったからです。
アスペルガーと診断される人たちは 近年急激に診断例が増えていています。理由としては発達障害者支援法が2005年に施行されたため、自閉症やアスペルガーという言葉が社会的に広がり始めたこと。特に大人では、自閉症などが要因となり職場で馴染めず、不況も重なり離職し、精神的に追い詰められたときに心療内科を受診して診断されるケースが増えてきたことがあります。
(ケイティ )
Kaienを設立して、いろいろ苦労はあると思いますが、最もやりがいや幸せ、 達成感などを感じたときってどんな時ですか?
(鈴木さん )
やはり就職先が決まった時が一番嬉しいです。また契約を結んで、訓練の 修了生を送り込む先が増えることがわかった時ですね。それと、ほとんどの自閉症の方との面談時に言われますが、「自分の強みを 見てくれるところなんてこれまでありませんでした」「Kaienさんがあるという ことだけで希望です」などといってもらえることです。
( ケイティ )
このビジネスが軌道にのるために、必要なサポート、または、課題はなんだと 思いますか?
( 鈴木さん )
基本的には今のモデル(訓練=>紹介)ではソコソコできても、労働集約型で スケールは出ないと思っています。きちんと自社で雇用して、自分のところでIT技術者を活用したサービスを提供 できるようにしたいと思っています。つまり、ビジネスモデルのギアがあるとしたら、もう1速か2速どこかで変えて いかないといけないということです。紹介業とIT業は、経営者としても組織としても「付ける筋肉が違う」とよく 言われますし、僕もそのとおりだと思います。どのように次のモデルに脱皮していけるか、今何が足りなくて、どのように したらそれを会得できるか、それを毎日考えています。
● 自閉症の方の強みを引き出す訓練事業においては、日本でオンリーワン
( ケイティ )
デンマークの スペシャリステルネ社を参考にして起業したとありますが、同社は、デンマーク社会でどのように認知され、役立っていますか?
( 鈴木さん )
スペシャリステルネ創業者のThorkil Sonne(トーキル・ソナ)氏は、デンマーク のみならず世界で認知されています。
ASHOKAからはフェローとして、またGoogleやMicrosoftとも密な関係を築いているようです。また世界最大規模の自閉症団体のAutism Society of Americaなどからも頻繁に招かれて、そのモデルを世界に広げていこうと考えています。やはり自閉症という弱者と思われている人の中でも、なかにはその弱みを強みに 変えられる、そしてそれが職業に結びつき、他の人には出せない優れた成果を挙げられるという、逆転の発想を見事に事業に結びつけたところが評価されているようです。
(ケイティ)
Kaienのように、自閉症者向けに職業訓練をしたり、雇用支援をする会社は、日本ではKaienだけですか?
世界に学ぶ事例が欧米には多くありそうですが、実際はどうですか?
( 鈴木さん )
唯一の場だと思います。他にも自閉症の方に勉強を教えたり、PCを教えたりという こともありますが、自閉症の方に特化し、その特性を引き出すという訓練はここだけのはずです。当然、デンマークを参考にしていますので、デンマークでも同じような訓練を 行っています。
ただ、これは私もデンマークの会社を2回訪問して気づいたことですが、日本の方が優秀な自閉症の方々が職についていないケースが多くなっています。
そのためKaienの方が高度なことをより教えやすいというのが実態です。
(これはある意味不幸なことで、それだけ能力がある方も、日本の職場では弾き飛ばされやすいということだと思います)
また私はKelloggで学んでいたときに、Kaienのビジネスモデルを用いて、地元のNPO・Aspiritechでプロジェクトを走らせていました。名前だけですが、今でも私はそのNPOの理事を務めています。今彼らも自閉症の人を訓練しソフトウェアテスターとして活用しています。ですので世界的に見て、デンマーク、日本、アメリカの3つの企業・団体でしか、 まだ行われていない事業です。
●鈴木さんとキャリア選択~ MBAホルダーである前に、人だから~
( ケイティ )
鈴木さんは、幼い時や学生のころは、どんな少年でしたか? または、どんな事に興味をもっていましたか?
( 鈴木さん )
漫画は買ったことありません。テレビゲーム機もなかったです。小2の時に、独学で野球のスコアブックを覚え、高校野球やプロ野球の試合だけでなく、草野球の試合まで記録しているような子でした。
勉強や体操はできたタイプでした。が、小学校の時から先生が嫌いで生意気に 反論していました。高校のときは部活をしすぎて出席日数が足りなくて大変でした。
谷崎潤一郎に惹かれて文系を目指しましたが、大学時代にはまったのはオーケストラでした。 そのうちに外国にどうしても行きたくなって、結局留年して、 1年弱、バックパックを背負って 一人旅をしました。特にアメリカやオーストラリア の砂漠が美しくとても感動しました。
とまあ、脈絡なく生きてきているなぁと常に感じていました。興味を持ち続けている物ってなかなか無いです。
( ケイティ )
ケロッグ卒業後に、ブーズ・アンド・カンパニー社に内定が決まっていました。
Kaienを設立する道に至った経緯や、価値感について、教えてください。
( 鈴木さん )
最終的には、KelloggのInterim DeanだったChopraと、SEEK(Social Enterprise at Kellogg)DepartmentのディレクターのProfessor Feddersen が小切手を送ってきてくれ、これで当座の生活費がカバーできるだろうから、起業して頑張れ、といってもらったことが大きかったです。
価値基準ですかぁ、、、まあ、もともとお金を沢山稼ぎたい方でもないですし、 物欲はゼロと言ってもいいぐらいないです。つまりgreedy な MBAタイプではないのかも知れないですね。
卒業後の時点では31歳だったので、一度や二度失敗したとしても、まだまだ 取り返せるという楽観的なところはあったと思います。そこまでは大きな決断 ではなかったです。 やりたいからやります、って感じでした。ワクワクしてきました。その決断をしたときは。
(ケイティ )
一般的には、金融、コンサルティング、メーカーなどで、エリートとして活躍 しているのがMBAの伝統的なイメージです。しかし、鈴木さんは、社会起業家と してのキャリアを選ばれました。MBAのスキルは、社会的問題解決に多いに活かせる、または活かすべきだと 思いますか? もしそうであれば、なぜそう思いますか?
( 鈴木さん )
自分では社会起業家になったつもりはなく、あくまでも自分のやりたい事、楽しめることを選んだ結果が今の道だと思っています。MBAホルダーである前に人ですし、人として一番楽しめる道を常に選びたいと思っています。
MBAホルダーだから、こうあるべきだという考えはほとんどありませんでした。自分が人として楽しむ道がたまたま社会起業などと呼ばれる分野で、また社会 問題の解決をするところなのかもしれません。いずれにせよ僕の好きな言葉で、
Brick walls are there for a reason.
They let us prove how badly we want something.
というLast LectureのRandy Pauschの言葉があるのですが、まさにそのとおりで、 壁があるからぜひぜひそこを乗り越えたいという気持ちがよく見え、 そこがとても面白みを感じるところです。
●人生は、質の高い出会いをいかに重ねられるかで面白みが決まる
(ケイティ )
Kaienを起業するにあたって、ケロッグだからこそ役立った知識、経験、人脈は なんでしたか?
( 鈴木さん )
ケロッグだからこそ、と簡単には持ち上げられませんが、やはりビジネスプラン を書く上で、KelloggのLevy Instituteの教授やスタッフにはとてもお世話になりました。毎週プランをブラッシュアップしてもらいましたし、コンペティションの 際にはニューオリンズまで一緒に来てもらったりしました。
また同じくビジネスプランを書く上で、非常に優秀な友人たちが周りにいたのはとても支えになりました。日本に帰ってきて起業したあとも、増資の申し出に 10人を超えるケロッグ卒業生が応じてくださったり、顧客候補を紹介して下さったりしています。増資は今後もどんどんやっていきますので、ぜひ皆様も応じて下さいね!!
(ケイティ )
世界には沢山のビジネススクールがあると思いますが、鈴木さんから見た ケロッグの素晴らしい点は何だと思いますか?
( 鈴木さん )
そうですね。他のビジネススクールに行ったことがないので、いつもこの質問を受けると、「なんともいえないです、他を知らないので、 比較のしようがないです。」とお答えしています。
とはいえ、どのトップ校でもそうだと思いますが、人生を変えてもいいような 出会いが色々とあるのはとても刺激的でしたし、今でもKelloggの人脈で どんどんとその輪が広がっていくのはとても嬉しいことです。
やはり人生は質の高い出会いをいかに重ねられるかで面白みが決まると思いますので、その意味では若いうちの2年間を過ごすには最高の場所
だったと思います。
鈴木さんの記事はいかがでしたか?
鈴木さんの写真も含めた全文記事、そしてその他のケロッグ卒業生の活躍ぶりもご覧になりたい方は、下記のケロッグのブログをクリックください
http://www.kelloggalumni.jp/Community/
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