H&Kの視点
宣言型から参加型のミッションへ:パタゴニアの世界観(1)/全3回

宣言型から参加型のミッションへ:パタゴニアの世界観(1)/全3回

2019年8月19日、米経済団体『ビジネス・ラウンドテーブル』は、これまで企業経営の原則であった「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換を発表し、ビジネス界に大きな影響を与えました。そして、日本でもESG投資、SDGs浸透の動きが加速しています。

今回は、先進的な環境問題への取り組みで知られる代表的企業、パタゴニア(patagonia)について取り上げ、パタゴニアが目指す世界観を「ミッション」と「コミュニケーション」という観点から3回に分けてご紹介します。

衣料品ブランドというイメージが強いパタゴニア。その原点は、パタゴニア創業者兼オーナーであり、元ロッククライマーでもあるイヴォン・シュイナード氏が、1960年代に独学で鍛造(たんぞう)を学び、“使い捨てではなく繰り返し使える” クライミング用ギアをつくり始めたことまで遡ります。

その後、クライマー用ウェアのブランドとして1973年にパタゴニア設立。以来約20年間、パタゴニアには明文化された企業理念が存在しませんでした。やがて急速に事業拡大を遂げ、企業規模が大きくなると同時に、創業者のイヴォン氏に直接会ったことがない社員も増えていきました。折しもアメリカは1990年頃、景気後退に突入し、創業以来順調に経営を営んでいたパタゴニアも、経営危機に陥ります。

そんなある日、製品づくりへの意識低下に危機感を感じたイヴォン氏が発した発言をきっかけに、パタゴニアは企業として自分達が本当に大切にすべきこと、伝えていくべきメッセージを明確にします。それが、1991年発表されたミッションステートメントです。

「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」

こうして、パタゴニアはこのミッションに基づく事業活動を通じ、環境への配慮だけではなく、エシカル(倫理的)な取り組みを実施。持続可能な成長の実現に取り組むトップブランドとしての地位を確立していきました。


しかし、パタゴニアで企業理念の責任者「Director of Philosophy」を務めるヴィンセント・スタンリー氏(創業者イヴォン・シュイナード氏の甥・イェール大学経営大学院の客員研究員)は今、当時を振り返り、こう語っています。

「このミッションを定めた1991年当時、このミッションは、野心的で志の高いものでした。しかし、現在のような『環境の危機的状況』の中では、不十分だと考えるようになりました。」

そして2018年12月、パタゴニアはミッションを以下のように刷新します。

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む(We're in business to save our home planet)

注目すべきは、ミッションの内容を「How(方法)」から「Why(動機)」へと変えたこと。環境保護に対する企業の姿勢を明確に示しています。そうすることで、同社の関係部署のみならず、さらに言えばパタゴニアのスタッフのみならず、全てのステークホルダーが自分事として考えるように促しているのです。


「私たちは〜する」と宣言するのではなく、企業の存在意義を明文化し、Purpose(企業の存在意義)をビジネスモデルの根幹に据え、事業を組み立てていく。ここには、「ステークホルダー資本主義」実践へのパタゴニアのコミットメントをみることができます。

変わり続ける社会・世界の中で常に自らを問い直し、企業活動の根幹とも云えるミッションを変換させていく姿勢に、パタゴニアが、持続可能な成長に取り組むトップブランドたる所以があるのでしょう。

彼らの取り組みは、国連 最高の環境賞である「地球大賞」での2分間の映像に見ることができます。(日本語字幕オンで自動翻訳されます)

“Champion of the Earth 2019 - Patagonia
by UN Environment Programme


文:堀内秀隆
 (H&K グローバル・コネクションズ 共同創業者/クリエイティブ・マーケター)




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