リーダーのストーリー
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<創業者×理念 #1>【ビッグイシュー】世界のセレブと協力し、ホームレス問題に取り組む社会起業家 ゴードン・ロディック & ジョン・バード

<創業者×理念 #1>【ビッグイシュー】世界のセレブと協力し、ホームレス問題に取り組む社会起業家 ゴードン・ロディック & ジョン・バード

皆さんは、『ビッグイシュー』という雑誌を売る人たちの姿を、駅前などで一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。

『ビッグイシュー(The Big Issue)』誌は、1991年に英国のロンドンで創刊されました。そのポリシーは一貫して、「買い続けたくなる雑誌をプロのジャーナリストが作り、ホームレスの人たちに販売にしてもらう」という前代未聞の仕組み。

当初、成功の可能性を疑われたこの新しいチャレンジは、やがて大成功を収め、現在は世界41カ国(2023年10月時点)にまで展開。日本では2003年に創刊し、BBCでニュースにもなりました。この画期的な取り組みをより深く理解するために、以前「ビッグイシュー日本」の大阪本社を訪問し、共同代表の佐野章二さんにお話を伺いました。

今回はビッグイシューを事例に、「創業者と理念」というテーマで書いてみます。


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当ブログ「リーダーのストーリー」シリーズでは、弊社の信条である「人が究極のブランド」を実践し、世界で活躍するリーダーたちにスポットを当てて、独自の視点で分析。変革に挑むリーダーやチームのために、理念・パーパスの実践、クリエイティブな発想、ステークホルダーとの関係づくりなどに役立つブランド・コンテンツや、コミュニケーションのヒントを発信しています。
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※本記事は、過去の記事を再編集したものです


「ビジネスの力で社会に貢献できる」― The power of business can do good for the society

「ビッグイシュー」を立ち上げたのは、自然派化粧品ブランド「THE BODY SHOP」の経営者でもあるスコットランド生まれのゴードン・ロディック(Gordon Roddick)と、ロンドンのスラム街出身のジョン・バード(John Bird)の二人です。

「ビッグイシュー」の功績を称えられ、2015年に男爵に叙爵されたジョン Photo by Chris McAndrew from Wikimedia Commons


ビジネスの発端は、ゴードンが米国ニューヨークを訪れた際、ホームレスの人がストリート新聞を売っている様子を目の当たりにして感銘を受けたことに始まります。「The power of business can do good for the society(ビジネスの力で社会に貢献できる)」という強い信念を持っていたゴードンは、慈善事業ではなくビジネスとして貧困を解決する方法を、英国でも実現させたいと考えました。

「事業として成立しない」と社内で反対の憂き目に遭ったゴードンは、不屈の精神で彼の詩人仲間のジョンに呼びかけます。ところが、貧しい幼少時代やホームレス生活の経験を持つバードから返ってきた反応は、いたって冷ややかなものでした。「なぜ俺がそんなチャリティーをやらなきゃいけないんだ?」しかし、負けじとゴードンも反論。「誰がチャリティーと言った? ビジネスにしてみたらどうだろう?」

こうして二人は「ビッグイシュー」を創業し、貧困という社会課題の解決への挑戦をスタートさせたのです。



寄付ではなく、「自立(Self-help)」を支援

二人の創業者の信条は「あらゆる社会問題の解決に、ビジネスを適用すること」。

ジョンは自分の体験から、ホームレスの根源的な問題は「自尊心とモチベーションが損なわれること」であり、その引き金は人間関係の破綻(Relationship-breakdown)だと実感していました。

そこで彼らが発案したのは、「自立(Self-help)」というキーワード。これは、本事業の根幹を支える重要な価値観です。

『ビッグイシュー』誌を販売し、自分で稼ぐ達成感を得ることで、ホームレスの人々に人間としての尊厳を取り戻してほしいと考えたのです。まさに「仕事は平等への最適なツール」というわけですね。

もし政府やボランティア団体であれば、おそらく「雑誌販売で得た収益を寄付しよう」「ホームレス向けの施設を提供しよう」などという“一方通行”の発想にとどまっていたでしょう。


Photo by Neil Theasby from Wikimedia Commons


セレブなどの関わる人々すべてが貢献できる仕組み

「ビッグイシュー」の特徴は、広告収入の割合が少なく、収益の多くが雑誌販売で確保される仕組みにあります。魅力的なコンテンツを作り、販売部数を伸ばすことで、作り手と売り手とのwin-winの関係が構築されていく――つまり、ホームレスの人々との利害関係が一致しているわけです。

表紙を飾る著名人は、俳優から作家、アーティスト、ミュージシャン、各分野のプロフェッショナルまでと幅広く、雑誌の内容は読み手にとっても興味を惹かれる工夫が凝らされています。

このようなセレブや一流のプロたちは皆、無償でインタビューや写真撮影に応じています。「ビッグイシュー」がいかに社会的信頼を確立しているかが、うかがい知れますね。

もう一つ重要なのは、人と人とのネットワーク。「ビッグイシュー」のステークホルダーは、創業者の二人とセレブリティ、販売員、購入者であり、その共創的なつながりが比類なき成功をもたらしています。

 

ここで、『ビッグイシュー日本版』の表紙を飾ったこともある俳優・人権活動家のサヘル・ローズさんのエピソードをご紹介しましょう。

大学時代にインドへの一人旅に出たサヘルさんは、苦境に置かれた人々であふれ返っている惨状を目の当たりにしました。物乞いの子どもたちに同情するあまり、お金を渡して帰ったという話を聞いたサヘルさんの養母は、逆に次のように叱責したのです。

「魚を渡し続ければ、彼らは一生釣りの仕方を覚えられない。大事なのはお金を渡すことではなく、仕事の仕方を教えること」。

この教えは、前述したジョンの「仕事は平等への最適なツール」にも通じますね。

『ビッグイシュー日本版』創刊15周年記念メッセージムービー(サヘル・ローズ編)


同じ体験をした人にしかわからない、痛みや苦しみ。その経験から転じて、社会で困っている人々のために役立てられたら――。このような姿勢でビジネスを構築し、発信することは、利潤追求を超えたライフワークにまで発展する可能性があります。

ジョンとゴードンの情熱と行動は、地球の裏側に住む私たちにも大きな影響を与えています。生半可な覚悟では成就できない「人の尊厳を中心に据えた世界的なブランディング」を、私たちは学ぶことができるからです。

今回のポイント:
創業者の理念を核に、自身の経験に裏づけられたビジネスは、社会に大きなインパクトを与える。

 

文:ケイティ堀内 
(H&K グローバル・コネクションズ 共同創業者 / プロデューサー)

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