映画のようなストーリーのある人生を選ぶ ~日本交通株式会社 代表取締役 川鍋一朗さん
今回のステキ人は、逆境を克服し、別名「タクシー王子」で有名な日本交通株式会社の社長、川鍋一朗さんです。川鍋さんも、ケロッグ経営大学院の卒業生です。
さて、今回も、母校であるアメリカのビジネススクール「Kellogg School of Management (通称ケロッグ)」の、ステキな「卒業生」をご紹介いたします。
今回は、1997年卒業の川鍋一朗さん。
川鍋さんは、創業80余年の歴史を持ち、売上高 日本一のタクシー・ハイヤー会社、『日本交通株式会社』の三代目社長です。
http://www.nihon-kotsu.co.jp/
川鍋さんは、社長就任と同時に1900億円の負債を背負い、その後、見事に会社再建を果たされました。
川鍋さんは、なんと、若干29歳で、取締役として入社し、34歳で、代表取締役に就任されました。
それまでは、慶応大学での学生生活を謳歌し、コンサルティング業界のトップ企業であるマッキンゼー・アンド・カンパニーでのキャリアを経験されています。
長身でイケメン、笑いのセンスにあふれた社交家。
別名「タクシー王子」。
誰もが華麗なライフスタイルしか想像できません。
でも、川鍋さんは、若くして、大変な重荷を背負っていたのです。
まず衝撃的な社長就任。
2代目社長である父親が、突然血を吐き入院し、その当日に、社長就任が決定。翌日には、大切なお父様を亡くされました。
大会社の社長に、若干34歳という年齢で、引き継ぎも十分になされないままの就任。そして、直後に大事な家族を亡くすという現実。
かなり強靭な精神力を求められたはずです。
社長就任時の大きな課題、それは、1900億円の負債でした。
バブル成長時代に拡大した不動産や本業以外の投資が主な原因です。
彼は、先代社長に仕えてきた社内のブレインや社員、弁護士、銀行と協力し、ほとんどの資産を売却するという決断をしました。
かつては、麻布に大きな邸宅を構えていて、訪問させて頂いたことがあります。邸宅内にはエレベーターがありました。でも、その邸宅も処分されてしまいました。そして2005年、とうとう、V字回復を果たしたのです。
さらにすごいことがあります。
なんと、川鍋さんは、社長でありながら、2007年大晦日から1か月、(社長を休業し)タクシー運転手として勤務されたのです。
社内のスタッフや関係者は、かなり動揺し、ブーイングもおきました。
中には、
「1か月運転手になるということは社長なんか必要ないのではないか」
といった中傷までありました。
しかし、彼は、だれが何と言おうと決行したのです。
試練を乗り越え、見事成功を勝ち取ったと思ったら、今度は、自らが試練に飛び込み、普通の人がやらないような事をやってのける、、、。
自分のブランドを持っている人というのは、自分のストーリーを持っています。
映画のように、人々に驚きや感動を与えるストーリーです。
川鍋さんは、生い立ちはもちろん、自らも ストーリーを作っている人だといえるでしょう。
■ 長期的な視野に立ち、タクシー運転手を実践 ■
このように、川鍋さんは、2007年大晦日から、1ヶ月社長を休業し(!)運転手として勤務しました。
1日16時間勤務というタフな業務。
しかも、自他ともに認める地理音痴(!)。
なぜ、川鍋さんは、運転手としての経験を選んだのでしょう。
彼の著書に、重要な言葉が輝いています。
「創業者である祖父の川鍋秋蔵は、お抱え運転手として10年間、自分でハンドルを握った。
初代を100とすると、今の自分の現場感覚は、1くらいである。
次の30年を見据え、3代目の自分に、今一番必要なものは何か?
それは恐らく、現場感覚であろう」。
ケロッグのMBA取得者は、卒業後、経営者や経営的な職務に就くことが一般的です。つまり、営業やオペレーション業務などの現場業務に従事するチャンスもなく、いきなり企画や経営的判断を要求されることが多いのです。
でも、実は、現場を知ることは最重要課題なんですよ。
川鍋さんは、現場感覚があるとないのとでは、その後の経営判断のレベルに雲泥の差がでてくることを知っていました。
そして、会社を30年という長期的視野で捉え、その成長のためには、「1ヶ月の現場経験」が必要だと判断されたのです。
川鍋さんのブレイク・スルー、それは、このタクシー運転手としてのプロセスを1ヶ月しっかり経験し、多くを学んだことにつきると思います。
■ 粘り強い挑戦と、徳を核にした社是 ■
川鍋さんの社内でのチャレンジが、滞ることはありません。
社長就任後のリストラクチャリング、1か月のタクシー勤務の発表、そして、黒タク等の新サービス導入,,,。
若い年齢で役員になったからか、 もしくは、タクシーという古い業界だからか、社内からの反発、抵抗は、相当なものでした。
たとえば、社内通信で「車内温度を26度に保とう」と書くと、「イチローさん、あなたが一番暑苦しい。あなたがいなければ、日本交通はクールビズ」という調子です。
このような批判・中傷を含めた現場の声に対して、川鍋さんは、うまく感情をコントロールし、相手の立場を理解しながら、前向きなディスカッションを続けました。
ユーモアのセンスを忘れず、常に感謝の気持ちを持ち続け、チャレンジ精神で前進していきました。
また一か月の運転手勤務もこなしました。
運転手としての任務は相当ハードです。道を間違っても、トラブルにあっても、”自分を笑う”余裕。
”よし、次は絶対に目標をクリアするぞ”という向上心。
お客様一人一人に対する"感謝する心"
営業収入(一日の売上)が少しでも伸びた時に"感動する心"。
小さな事のようですが、これらの前向きな考え方が、経営者として、リーダーとして、大事な事ではないでしょうか。
また、情熱や信念がなければ、これらの壁は絶対に乗り越えられません。
川鍋さんの著書に、会社再建に関わった(弁護士の)清水先生の素敵な言葉を見つけました;
「自分がやってきた何百件という案件の中で、日本交通の案件は、五指に入るほどうまくいった。なんでか分かりますか?
君はがんばった。私もがんばった。だけどそれだけじゃ、ここまでうまくはいかない。
この会社が過去に積み上げてきた徳があったから、もう一回チャンスを与えられたということなんだ。
先人が遺した徳が、今の日本交通を救った。
だから、会社が復活したら、君はもう一度徳を残さなければいけないよ」
川鍋さんは、社会に「徳」を残すことを使命とし、新しい社是を作成されました。
~ 社是 「徳を残そう」~
桜にN、日本交通に集う私達は、誇りを持って働き、高い業績を上げ、物心両面の幸せを実現して更に誇りを持って働き、以って仕事を通して後世に「徳」を残すことを、その経営理念と致します。
皆に愛され、応援されながら、タクシー事業の発展に取り組んでいる川鍋さん。彼を通じて、、タクシー会社の中に、高いモラルを持って、高品質なサービスにこだわる会社があるということがわかりました。
詳しくは川鍋さんの著書「タクシー王子、東京を往く」を読んでください。東京に来たら、ぜひ、日本交通をご用命くださいね!
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