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ケロッグで教えるファミリービジネスリーダーシップ論 (1) ジャスティン・クレイグ

ケロッグで教えるファミリービジネスリーダーシップ論 (1) ジャスティン・クレイグ

日本はファミリービジネス大国ということをご存じだろうか?

ファミリービジネスとは、創業家一族によって所有・経営されている企業のことであり、日本では、オーナー企業や同族企業などと呼ばれている。日本国内の企業は、創業100年以上続く企業が数多く存在し9割以上がファミリービジネスといわれている。ファミリービジネスと聞くと、ワンマン経営で、家族運営の零細企業といったネガティブなイメージもある。しかし実際は、トヨタ、セブン&アイホールディングス、S.Cジョンソン、ウォールマート、エルメス、BMW, ポルシェなど、世界の名だたるグローバル企業の多くもファミリービジネスなのである。

ファミリー企業は、一般企業(非ファミリー企業)よりも収益率が高く、存続期間が長いことが実証されている。そのため、近年、世界のビジネススクールで、ファミリービジネス研究が活発化している。

ジャスティン・クレイグ氏

ケロッグ経営大学院もその一つである。2017年、同大学院のファミリービジネスセンター(Center for Family Enterprises:略称KCFE)のディレクターである ジャスティン・クレイグ教授(Justin Craig)が日本に初来日し、ケロッグ卒業生のファミリー企業関係者に対してミニレクチャーを開催してくれた。さらに、デロイト トーマツ フィナンシャルアドバイザリー合同会社とケロッグ経営大学院KCFE (Center for Family Enterprises)、そしてKCJ (Kellogg Club of Japan)共催の「創業家におけるリーダーシップ」に登壇した。

本記事では、ケロッグとファミリービジネスの関係、さらにファミリー企業を成功に導く「リーダーシップ」のあり方について、クレイグ教授からの学びを共有したい。

1. ケロッグは、ファミリービジネス研究で世界トップクラス

ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院は、ファミリービジネス研究において世界を代表するビジネススクールのひとつであり、そのカリキュラム、研究、活動及びネットワークが、他のMBAやエグゼクティブ・プログラムと比較して、非常に充実している。

ジャスティン・クレイグ氏

ケロッグには、世界のファミリービジネス研究の第一人者、ジョン・ウォード教授(John L. Ward)など、クレイグ教授以外にも優れた教授が名を連ねている。

ジャスティン・クレイグ教授は、自身もファミリー企業の一員として育ち、試行錯誤した異色の経歴を持つ。オーストラリアでホテル経営する一家に生まれ、10歳から家業を手伝っていたという。

子供のころから、家業が上手くいく方法を実体験の中で模索してきた彼は、それを学問として学びたいと考えた。30歳で大学に入学し、ビジネスと心理学を学んだ後、博士号は行動科学で取得。その後、自らファミリービジネスの研究者となったのだ。

ジャスティン・クレイグ氏

2. スリー・サークル・モデル

クレイグ教授は、リーダーに必要なスキルや心構えについて、過去25年間で成功したファミリービジネスを観測・検証して得られた知見より開発されたモデルを例に説き明かした。

まずは、ファミリービジネスの基本的なフレームワークの一つ、「スリーサークルモデル」。 ファミリービジネスを「オーナーシップ:株主(O))、「マネジメント:経営執行者(M))、そして「ファミリー:創業家一族(F))という3つの要素から構成される複合体と考えるもので、ファミリービジネスの仕組みを理解するために大変有効である。(F)、(M)、(O)それぞれ3つの立場(トリレンマ、三項対立)を理解し、解決する鍵を学ぶことが重要であるという。
*注)スリーサークルモデルは、1982年に当時ハーバード・ビジネススクールの教授であったRenato TagiuriとJohn A.Davisによって提唱された概念。

スリー・サークル・モデル

クレイグ教授言わく、「これら3つの円によって区分され重なる部分も含んだ『7つの領域』に属するステークホルダーは、立場も価値観もそれぞれ違います。一般企業は、『株主』と、『企業経営執行者』の2者の立場、つまり2つの円のみです。一方、ファミリー企業はそれにファミリーが加わり3つの円となるため、システムが複雑で、様々な混乱が生じる要因となるのです。」

「この『トリレンマ』を注意深く管理し、混乱や衝突を最小化し調和を高めていく事が、事業の継続性には不可欠です。これが、各企業の強みを生かしたイノベーションを起こす原動力となります。そのためには、ファミリーのチーム、オーナーシップのチーム、そして経営のチーム、各チームの間の信頼醸成が重要になります。

そして各チーム間の課題を解決するためにはプランニングが必要です。まずFとOの重なる部分には、Estate Planning(相続プランニング)、OとMが重なる部分にはStrategic Planning(戦略的プランニング)、そしてFとMが重なる部分にはHuman Resource Development Planning(人材育成プランニング)です。そして、これら全てを組み合わせたものが、承継プランニング(Continuity Plan)となるのです。

承継プランニング(Continuity Plan)

3. 各システムは発展していく

クレイグ教授によると、3つの円にある「O」「M」「F」は、多様で、複雑で、時間の経過と共に変化・発展していくシステムである事を理解する必要があるという。

「世代を重ねていくにつれ、ファミリービジネスの中のオーナーシップの姿というのが、どんどん変わっていきます。リーダーとして、『オーナーシップシステム』、『ファミリーシステム』、そして『ビジネスシステム』を率いていかなければならないわけですから、それぞれのシステム、つまり、それぞれの立場の視点を理解し、解釈をする必要があります。

ジャスティン・クレイグ氏

例えば、『オーナーシステム』について、時間の経過による変化を見てみましょう。まず、創業者のみによるコントロール(支配)している状態(G1: Controlling Owner)。それが、兄弟や家族間とのパートナーシップという形に進化していきます(G2: Sibling Partnership)。そして、その兄弟が結婚し、オーナーシップは『創業家』から『創業一族』へと変わり、従妹も含めたコンソーシアムのような形になるのです (G3: Cousin Consortium)。」

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取材・文責:ケイティ堀内

*この記事は、ケロッグ・クラブ・オブ・ジャパン(ケロッグ経営大学院 日本同窓会)が運営するサイト、ケロッグ・ビジネススタイル・ジャパン向けに執筆したものです。

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